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    2017.04.17 Monday

    正竜伝記 第一章 トーラという名の少年 5

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      これにて第一章終了です。

       

       

       

       

       

       

       

       


       ところ変わって、ここはサンタローズの村。
       四方を高い山に囲まれた盆地にある小さな集落だ。
      「いやはや、今年の冬はどうなっているんでしょうかねぇ」
       その気性の穏やかそうな小太りの男は、窓からまんまるの顔を突き出して呟いた。
       もう四月も半ばだというのに、空からはしんしんと雪が降り、地面を真っ白に染めていた。
       吐く息も冷たく、鼻の奥底まで凍り付いてしまうかのようだ。
      「このぶんじゃ、旦那様達のお帰りは明日の午後くらいになりますかねぇ」
       主と再会するのは何年ぶりだろうか。
       探し物の手がかりは見つかっただろうか。吉報があるといいが。
       そうそう、あの小さかったトーラぼっちゃん。最後に会ったのは四つの頃だった。いつもサンチョサンチョ、と自分の名を繰り返し呼んではよちよちとついてきた、あのかわいい坊や。
      「わたしのこと、覚えているといいんですけど」
       彼に再会するのが一番の楽しみだった。
      「さぁ、そろそろ寝ましょうかね」
       夜も冷えてきた。サンチョは雨戸を閉めようとした時だった。
       突然、ドォンという、隕石でも落ちたかといわんばかりの音が轟いた。
       びっくりして、閉じようとした蓋を再度開ける。
       そこで目にした光景に、サンチョは目を丸くした。
       えぐられ、クレーターのように凹んだ大地に、数人の男女が倒れていた。
       倒れていたといっても、命に別状はないらしい。
       彼らはすぐに起き上がった。
      「いたたたた。ひどい目にあったなぁ。魔法の力で落下時の衝撃は和らいだらしいが……大丈夫か。二人とも」
      「う、うん」
      「な、なんとか平気です」
       二人とも、怪我ひとつしていないようだ。
      「しかし、ちゃんとサンタローズにはついたようだな。ん?」
       この時になってようやく、パパスは惚けたような目でぽかんと口を開けているサンチョに気づいた。
      「おぉ、サンチョ。懐かしいな。元気だったか」
      「……はっ!」
       とっさに我に返る。
      「だ、旦那様! こ、これはお、お早いお帰りで……! あぁ、どうしましょう。てっきり明日になるとばっかり。い、いまから出来るお料理といえば」
      「それには及ばん。急いで薬師殿のもとへ行かなければ!」
       言うが早いか、パパス達は駆け足でその場を立ち去ってしまった。
       残されたサンチョは、状況が飲み込めず、ただただ目をぱちくりさせるだけだった。

       

       

       

       

       薬師の住処は、村の北にある切り立った崖の麓。そこにぽっかりと空いた洞穴だった。
       壁をくり抜いて、そこに家具やベッドといった品々をそろえて生活している。
       パパスもサンタローズの村に住んでだいぶ長いが、実際に訪れたのも、薬師と会うのも初めてだった。
      「失礼。薬師殿はご在宅かな」
       洞窟の入り口の前で……ここには扉がないのだ……パパスはやや大きめな声で言った。
       しばらくすると、奥から一人の青年がやってきた。歳は二十代前半の、そばかすが特徴的な気のよさそうな男性だった。
      「夜遅くに失礼。私はこの村に住むパパスという者だが、あなたがここの薬師殿かな」
      「いえ。私は先生の助手をしている者です。先生は今外出中でして……あ、なにか薬を所望ですか?」
      「そうなんだ。実は……」
       パパスはことの顛末を簡単に話して聞かせた。
      「……マホトラ草、ですか」
       助手はうーん、と困ったように眉をひそめた。
      「残念ながら、手元にはありませんね。ただ」
      「ただ?」
      「以前、先生がこの付近にある洞窟の深層部で、マホトラ草を見たと話していたことがあります。先生なら、その場所を知っているかもしれませんが……」
      「なにか、問題でも?」
       助手が言葉を濁しがちだったのが、パパスは引っかかった。
      「実は、昨日の朝から先生がその洞窟に薬草を採りに行ったまま、戻ってこないのです。もしかしたら、中で魔物に襲われて怪我をしたまま動けなくなっているのではないかと、心配で心配で……」
       嫌なイメージを想像してしまったのか、助手の顔はさらに青ざめた。
      「うーむ。確かにあの洞窟には昔からスライムやドラキーがよく出るが、やつらは滅多に人は襲わない。その可能性は薄いのでは?」
      「いえ、最近では、ガメゴンやアウルベアーといった、凶暴な奴らが出没するようになっているのです。いくら腕っ節が強い先生でも、あんな化け物たちに襲われてはひとたまりもない……」
      「わかった。私が、その方の無事を確かめにいこう」
       パパスは迷うことなくそう告げた。
      「私達、だよ、おとうさん」
       トーラがそう付け加える。
      「しかし、本当に危ないぞ。やっぱりお前達は」
      「だいじょうぶだよ」
      「それに、マホトラ草のこと、おわすれになったわけじゃないでしょう?」
      「……やれやれ。わかったよ。ただし、私のそばを決して離れないこと。無茶はしないこと。いいね、二人とも」
      「そういうことなら、これを持って行ってください」
       助手はそういうと、そばのタンスから何かを取り出した。
       それは小ぶりの銅の剣と皮の盾。そして先端に紅い宝石が付いた樫の杖だった。
      「私の護身用ですが、お二人に差し上げます。剣と盾は坊ちゃんに。樫の杖はお嬢ちゃんに」
      「いいんですかな?」
      「これくらいさせてください。それから、その樫の杖は別名魔導師の杖といって、念じると炎の魔法を放つことができるという優れものです。威力はギラ程度ですが、きっとお役に立てるでしょう」
      「ありがとう。大切にしますね」
       フローラは礼を言って、魔導師の杖を受け取った。
       

       

       

       第二章に続く

       

       

       

       

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