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2018.09.29 Saturday

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    2017.01.26 Thursday

    正竜伝記 第一章 トーラという名の少年 1

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      正竜伝記は一回のアップの長さは短めですがこまめに更新していきます。

       

       

       

       


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       時は遡ること十年以上前。
       晴れ渡った空の下の海原を、一隻の帆船が航行していた。
       目的地は北の大陸。大国ラインハットの統治下にある小さな港ビスタまで、あと二、三時間といったところだ。
       このままいけば、夕暮れまでには目的地に到着するだろう。
       そんな船員の何気ない会話を、少年は船室のハンモックの上で聞いていた。
       少年……というより、男の子と呼んだ方がしっくりくる。なにせ、この間やっと六歳になったばかりの幼児だ。
       髪は夜空のような青みがかった黒髪で、そのくりくりとした大きな目は黒曜石のような輝きを放っている。もっとも、今はその目はどことなく元気がない。
      「あぁ、はやく陸につかないかなぁ」
       このトーラという名の男の子は、小さい頃から……もっとも、今も十分幼いが……乗り物が苦手だった。
       そんな彼にとって、この船旅はまさに憂鬱な日々だった。
      「はっはっは、坊や。体調はどうだい?」
       そんな彼に、船員の一人が気さくに話しかけてきた。
       浅黒い肌をした、二十代前半の快活そうな男性だ。
      「もう最高だよ」
      「ははは、そんなジョークが言えるなら、大丈夫だな」
       そういうと、船員はほいっと少年に瓶の液体を放って渡した。
      「気付け薬だ。俺のとっておきだけど、お前さんにやるよ」
      「いいの?」
      「子供が遠慮するなって」
      「ありがとう!」
       お礼を言ってトーラは蓋を開けた。
       甘いフルーツとシロップの香りが、彼の憂鬱をあっという間に吹き飛ばした。
       気付け薬という名の炭酸の飲料をごくごくと一気に飲み込む。
       さわやかな喉越しが、船酔いの気持ち悪さを洗い流してくれたみたいで、トーラはすっかり元気になってぴょいっとハンモックから飛び出した。
      「どこにいくんだ?」
      「外だよ! 陸が見えてるかもしれないから!」
       言うなり、少年は脱兎のように船室から飛び出した。
      「ははは、全く、元気な小僧だったぜ。あいつとも、もうお別れか」
       船員は寂しげに笑った。
       大の男だけのむさ苦しい船の中で、小さなトーラはちょっとした人気者だったのだ。
      「何が起きても、くじけずに元気でやれよ、坊主」
       聞かれていないとわかっていても、船員はそう励ましの言葉を言わずにはいられなかった。
       なぜだか、そんな気がしたのだ。


       それから十分ほどの時が流れた。
       トーラはというと、前方が一番よく見渡せる船首にいた。てすりに身を預け、飽きることなく真っ平らな地平線を呆然と眺めている。
       先ほどまで元気にはしゃいでいたのが嘘のように、少年はただただじっと、亀のように身動き一つしない。
      「こんなところにいたか」
       ぽんと、何者かが彼の肩に手をやる。
       顔を上げると、そこには見慣れた戦士の顔がそこにはあった。
      「おとうさん」
      「船酔いはもういいのか」
      「うん」
       こくんと、トーラはうなずく。
      「お前のそういうところは誰に似たんだろうな。私ではないし、死んだ母さんでもなかった」
       トーラは母の顔を知らない。物心ついた時から、彼は父と共に世界中を旅していた。その傍らには、本来いるべきである母親の姿はなかった。マーサという彼の母親は、一人息子を産むとすぐに病気で亡くなったらしい。
       そもそも、息子のトーラからして、父パパスは謎多き人だった。
       何のために世界中を旅しているのか。そもそも、その旅費は一体どこから得ているのか。旅の中で父が日雇いの仕事をしているところなど、見たことがない。
       たまに魔物退治や傭兵まがいのことをしてはいるが、それだって一年に一度、あるかないか、だ。
      (僕のお父さんって、いったい何者なんだろう)
       ついこの間まで疑問にも思わなかったことだが、今のトーラは内心気になっていた。
       だが、そんなことを真っ正面から父に聞けるわけもなく、彼はまたふっと目線を海原に向けた。
       どれくらいそうしていただろう。
       やがて、徐々に地平線に大陸のシルエットが浮かび上がってきた。
      「おとうさん。あそこに僕のおうちがあるの?」
       トーラは大陸を指さして訊ねた。
      「あぁ、そうだぞ。サンタローズという名、まだ新しい村だ。覚えているか?」
      「ううん」
       トーラは頭を左右に振った。
      「そうか。無理もない。あの時は、お前も今よりもっと小さかったからな。召使いのサンチョのことも覚えていないのか?」
       そう言われて、トーラの脳裏に、子供の頃(もっとも、今も子供だが)とってもかわいがってくれた太っちょのおじさんの姿が目に浮かんだ。
      「覚えてる! サンチョのパンケーキ! はちみついっぱい乗った!」
      「はははは。なるほどな。そういう覚え方か!」
       パパスは愉快そうに大声で笑った。

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